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京都中央信用金庫創立80周年記念事業・一般財団法人きょうと視覚文化振興財団設立記念
「須田国太郎展-油彩と能・狂言デッサン」
講演会 報告レポート

【内容】

京都中央信用金庫創80周年記念事業・一般財団法人きょうと視覚文化振興財団設立記念「須田国太郎展~油彩と能・狂言デッサン~」の一環として講演会が開催されました。

(画像クリックで拡大)


【日時】 2021年4月15日(木)午後1時30分~

【会場】 京都府立府民ホール・アルティ

【第1部 須田国太郎の作風】

  原田平作氏(大阪大学名誉教授)
  竹内浩一氏(日本画家、元京都市立芸術大学教授)

【第2部 須田国太郎の能・狂言デッサン】

  天野文雄氏(大阪大学名誉教授、京都芸術大学舞台芸術研究センター所長)   金剛永謹氏(金剛流二十六世宗家)






【第1部 須田国太郎の作風】

  (右:原田平作氏、左:竹内浩一氏)

第1部では、須田国太郎の画業に、美術史の立場と、作家の立場から光を当てることが試みられました。須田と言えば、《犬》や《鵜》などの動物をモチーフとする作品が有名です。では、同じ動物を描くにしても、油絵具を用いる油彩画と、墨や岩絵具を用いる日本画とでは、モチーフの選び方や描き方、また描写の狙いなどの点で、どのような違いがあるのでしょうか。美術史研究者と、動物を描く日本画家による講演は、このような根本的な問題意識に基づいて、進められたように思います。
大きなスクリーンに映されているのは、須田の《黄豹》(昭和19年[1944]、油彩・キャンヴァス、40×52cm、三之瀬御本陣芸術文化館蔵)。油彩画は、本来、西洋的なリアリズムを実現する技法として、絵具を塗り重ねることによって重厚なマチエールを得ようとするものです。しかし、この作品では、豹の身体を表すために一旦塗った絵具を大急ぎで削り取り、またその上に、粗く速い筆致で黒い斑紋を描き加えるという画家の手の動きを強調することによって、かえって、豹の生命そのものが輝き出す一瞬を定着することに成功しているように思います。
もっとも、美術史家のなかには、この作品が描かれたのが戦時中であるということに注目して、穿った見方をする人もいます。すなわち、この作品は表現主義的なもので、あたかも須田自身の自画像のように、ある精神的な内容を表明しているというのです。須田は、動物をモチーフとする場合、京都市動物園での観察に基づいて描くことが多いのですが、何かに挑むような豹の姿勢に、戦時中の息苦しい体制に対する抵抗や批判を見ようというわけです。このような見方からすると、須田に特有の暗い背景から浮かび上がる黄色い豹を描き出す荒々しい筆致は、動きのある野生動物を表現するものというよりも、この時期の画家の鬱屈した心境を表現するものなのです。いろんな見方がありますねえ・・・。




【第2部 須田国太郎の能・狂言デッサン】

  (右・天野文雄氏、左:金剛永謹氏)

第2部は、須田国太郎と能・狂言との関わりを問うものです。須田は、昭和2年(1927)[36歳]頃から昭和32年(1957)[66歳]までの30年間にわたって、6000点にも及ぶ能・狂言のデッサンを描き続けていました。デッサンとは言っても、能が演じられている能舞台の脇正面に座って、登場人物の行動(能役者の演技)を、スケッチブックを見ることなく、粗く速い筆致で、連続的に、何枚も描いていくものです。ただし、注目すべきことは、これらのデッサンが、油彩画の下絵として描かれたわけではないということです。では、なぜ、須田はかくも膨大な量のデッサンを描く必要があったのでしょうか。講演会での能楽研究者と能楽師の努力は、それぞれの立場から、この問題にアプローチすることに向けられていたように思います。キーワードは、「動中の静」とか「静中の動」とかと呼ばれるものなのですが、須田は、この画家の手の動きの露わなデッサンにおいて、何か人間にとって本質的なもの(内的なもの)を描こうとしていたとみなされる限りにおいて、《黄豹》などの油彩画における試みと通底していることはまちがいがないように思います。
スクリーンに映されているのは、須田が、子どもの頃から、足繁く通っていた金剛能楽堂の内部です。ただし、この金剛能楽堂は、室町四条を上がったところにあったもので、今はありません。ただし、その能舞台は、平成15年(2003)に、アルティの北隣に移設されました。



【連絡先】

きょうと視覚文化振興財団事務局

 〒611-0033 宇治市大久保町上ノ山51-35
 TEL / FAX  0774-45-5511
 Mail / info@kyoto-shikakubunka.com