視覚文化連続講座シリーズ2
第1回「視覚文化を横断する」
講座レポート
近世京都と近代東京の画人たち
-伊藤若冲と河鍋暁翠を中心に-
澤田瞳子
(小説家・同志社大学客員教授)
日時:2021年9月18日(土曜)午後2時から3時30分
会場:平安女学院大学京都キャンパス
主催:きょうと視覚文化振興財団 京都新聞社
協力:平安女学院 京都新聞総合研究所
連続講演第1回は、澤田瞳子先生のご講演でした。小説『孤鷹の天』(2010年)でデビューされ、中山義秀文学賞を最年少で受賞されるという快挙を成し遂げられ、その後も『満つる月の如し 仏師・定朝』(2012年)で時代小説大賞、『若冲』(2016年)で歴史時代作家クラブ賞および親鸞賞、さらに『駆け入りの寺』(2020年)で船橋聖一賞を受けられるなど、はなばなしい活動をされてきました。今年度(2021年)は『星落ちて、なお』(2021年)で直木賞を受賞され、名実ともに第一線の小説家として頭角を現されたものと思います。
今回のご講演は、『若冲』と『星落ちて、なお』の2作品の主人公である二人の画家についてお話しをされました。江戸時代後期の京都で活躍した伊藤若冲は、今もっとも人気のある画家の1人で、その経歴から始め、作風の特徴などをていねいにお話しされ、若冲の人となりを明快かつ詳細に紹介していただけたと思います。また、『星落ちて、なお』の主人公「とよ」は、幕末明治期の東京で、破天荒な絵画で気を吐いた河鍋暁斎の娘河鍋暁翠です。半ば埋もれた狩野派系の画家で浮世絵も描いた女性画家とよの葛藤を小説にしています。
歴史小説は、事実と事実の隙間をいかにして無理なく、また面白くつないでいくのかが重要らしいのですが、澤田流の小説作法によって、徹底的に資料を集めて実証するとともに、豊かな想像力で物語を成り立たせる、ということのようです。研究者によるアカデミックな美術史から除外されがちの河鍋暁翠の生涯を丹念に追うこの小説は、主人公の心のあやを鋭い感性でとらえた傑作だといえるでしょう。
直木賞受賞後も、コロナ禍のため、講演会などがほとんど開かれず、今回の連続講座のご講演が、初めてといってもよい催しであるとおっしゃっておられました。会場には通常の40名を越える60名近い受講生が集まり、ご講演後にはサインを求める人たちが列をつくりました。(N)