視覚文化連続講座シリーズ2
第4回「視覚文化を横断する」
講座レポート
山水のイメージ、山水画の「イメージ」
-リアルから理想・想像へ-
河野道房
(同志社大学教授)
日時:2021年12月18日(土曜)午後2時から3時30分
会場:平安女学院大学京都キャンパス
主催:きょうと視覚文化振興財団 京都新聞社
協力:平安女学院 京都新聞総合研究所
連続講座第4回は、河野道房先生のご講演でした。河野先生は、中国の山水画の誕生とその精神性についてお話しをされました。資料として、東晋から宋にかけての中国の隠者であった宗炳(375年 - 443年)という人物が書き残した「画山水序」という『歴代名画記』に収録されている文献を紹介され、講読形式で読みながら、要点をかいつまんで説明されました。
それによりますと、宗炳が初めて「山水画」を定義したということです。中国にいる偉大な人物を「聖人」と呼びますが、その聖人が霊妙な心の働きによって、宇宙を動かす根本原理としての「道」と一体化します。聖人を理解できる人物である「賢人」は、道に通じようと努めますが、そのときに、道を美しく象徴している「山水」の形を大事にするわけです。人間愛にあふれる「仁者」は、山水を楽しんで理想の境地に至ります。要するに、山水画に描かれている内容は、峰々は高くそびえ、雲の漂う林は茂り、聖人や賢者の心は、時代を超えて後世まで光り輝き、この世界のすべての物は、その霊妙な精神を現すということです。そうした状況に入ったとき、人間はこれ以上何をする必要もなくなり、ただ自らの霊妙な精神をくつろがせばよいという教えです。人々の精神をくつろがせるものとしては、「山水画」以上のものはないということです。
河野先生は、中国5世紀の工芸品に刻まれた「山水」の解説から始められ、10世紀の宋の時代に、「自分の胸の中にある山を描く」という文人画が誕生したことをお話しされました。大変高度で難解な中国の山水画の成立を、分かりやすい言葉で解説されましたので、受講生たちは、ベテラン研究者の学識の広さと深さを教えられ、感動したものと思います。難しい内容を平易に語ることほど難しいことはありません。その意味で、河野先生による今回の講座はなかなか聞く機会のない貴重で重厚なものであったと感じました。(N)