【目次】
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1.
- 美術史学とは
美術史学の研究方法
美術史家の悩み
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2.
- ルネッサンスとは
古代美術と中世美術
ルネッサンス美術の特徴
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3.
- ヨーロッパとは
南方(イタリア)と北方(ネーデルラント)
15世紀美術の2つの動向
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4.
- ヨーロッパのルネッサンス絵画と日本
西洋絵画の典型の確立(板/カンヴァスに描かれた油彩画)
ヨーロッパのルネッサンスと(石板/銅板に描かれた油彩画)
銅板油彩画と日本
【報告】
今回のテーマは、ヨーロッパのルネッサンスと日本美術。副題にもあるように、ヨーロッパのルネッサンス美術についての「概論」と、平川さんご自身の最新研究を紹介する「持論」の2部構成です。
「概論」では、最終的に、15世紀初頭の北方(ネーデルラント)で、板に、油分の多い絵具を重ね塗りし、筆致を消去する「グレーズ技法」が発明されて、他国へ伝播するとともに、16世紀中頃の南方(ヴェネツィア)では、カンヴァス(麻布)に、絵具を厚塗りし、筆致を残す「インパスト技法」が開発されることによって、「板やカンヴァスに描かれた油彩画」が、西洋絵画の典型として確立されたことが、視覚的に示されました。
「持論」は、この「概論」を補完するもので、ヨーロッパでは、「板やカンヴァスに描かれた油彩画」以外に、それと平行して、「石板や銅板に描かれた油彩画」が、油彩画の可能性を追求するものとして行われたことを指摘されました。この指摘は、きわめて重要です。というのも、まず、私たちは、「油彩画」と聞くと、カンヴァスに、生き生きとした/荒々しい/静謐な筆致などで描かれたものを想起することが普通で、その支持体(板/カンヴァス/石板/銅板など)に注意を向けることは稀だからです。しかも、支持体は、その物理的な性質(ざらざらしている/つやがある/平滑であるなど)に基づいて、筆致の有/無を通して、表現の感性的な性質(細密さ/発色の鮮やかさ/リアリティー/神秘性など)を規定しますから、支持体と絵画の内容(主題)や機能(用途)との間に、密接な関係が想定されるからです。
こういう点からすると、板に描かれた油彩画のことはさて措くとして、石板/銅板油彩画というものは、なかなか興味深いものです。しかも、カトリックの宣教師が、日本を含む、ヨーロッパ圏外で布教する際に携行していたものが、他ならぬ銅板油彩画であったとすると、なおさらです。というのも、私たちは、なぜ、彼らが、キリスト教の神を異郷/異教の地で布教するに当たって、銅板油彩画を選択したかについて、多様な観点から考察するように強いられるからです。平川さんは、銅板のなめらかで硬質な画面が、油彩の細密描写や鮮やかな発色を可能にすることや、金属の耐久性、また、小型・薄型への加工が容易であることなどを指摘したうえで、「不朽の支持体が、描かれたイメージ(神や聖人)に与える象徴性(不朽)」に言及されました。なるほどねえ。面白いですねえ。
そう言えば、仏像については、どのように考えればいいのでしょうか。仏教も、基本的(初期的)には、偶像崇拝を禁止していましたが、実際には、多くの仏像が造られました。その「仏像」を、「仏のイメージ」として、最広義に理解すると、その支持体としては、石/土/金属(青銅)/木/布(絹)/紙/言葉などと多様ですし、これに技法を掛け合わせると、その多様性は相当のものです。では、この支持体の多様性は、仏像の表現(内容)や機能(用途)とどのように関係するのでしょうか。何らかの仏像の特性を理解するためには、支持体の観点からも、じっくり考えてみる必要があるでしょう。というのも、例えば、何らかの仏像が木彫であるとして、その仏像の特性は、その支持体が石/土/金属(青銅)/布(絹)/紙/言葉ではないことを考慮することによって、いっそう明晰・判明になることが期待されるからです。平川さんにおかれましては、今後、美術と支持体に関するご研究がさらに深まることを祈るばかりです。(K)