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視覚文化連続講座シリーズ4 
第2回「暮らしの中の視覚文化」
講座レポート

明治工芸に見る日本人独特の美意識

村田理如
(清水三年坂美術館館長)
日時:2023年10月7日(土曜)午後2時から3時30分
会場:京都新聞文化ホール
主催:きょうと視覚文化振興財団 京都新聞社
【目次】
「粋」とは
「間」 - 装飾しない空間
生きものどうしが繰り広げるドラマ


【概要】
日本人には他国の人に無い独特の美意識がある。例えば茶の世界のワビ・サビ。サビて壊れてゆく物に美を感じる。また、能や水墨画に見られる幽玄の世界、この世とあの世を結ぶ幻想的で不思議な美。
明治工芸に見られる美も日本にしか無いものである。「粋」と呼ばれる世界は江戸中期元禄時代に始まったと思われる。武士の世界なのに 町人たち が力をつけて財を蓄える、持ち物にも贅を尽くす。それを快く思わぬ 武士たち は禁止令を出す。それをかいくぐって 町人たちがたどり着いたのが「粋」の世界。表向きは地味な着物だが、裾を返せば贅を尽くした素材に美しい紋様。
明治の工芸品には、あちこちに「粋」の世界が表現されている。「粋」だけではない。あえて装飾しない空間を残しておくことにより画面が引き締まり、気品が生まれる。これも日本にしかない美である。「雅」の世界もしかりである。華やかさの中に気品と風格を持つ。
明治工芸の中に日本独自に生まれた美を楽しんでいただきたい。



《菖蒲図鐔》 加納夏雄
清水三年坂美術館蔵 (c)木村羊一
《蝶図帯留》 加納夏雄
清水三年坂美術館蔵 (c)木村羊一





【作品リスト】
(全て清水三年坂美術館蔵 https://sannenzaka-museum.co.jp )

●金工
《菊図鐔》後藤一乗
《海賦 図急須》後藤一乗
《明治旧金貨》加納夏雄 原案
《菖蒲図鐔》加納夏雄
《蓮に川蝉図鐔》加納夏雄
《蝶図帯留》加納夏雄
《鶯宿梅図盆》海野勝珉
《孔雀図煙草箱》海野勝珉
《雪の鶴図香合》正阿弥勝義
《蜻蛉図香合》正阿弥勝義
《古瓦鳩香炉》正阿弥勝義
《蛇自在置物》宗一
《蜂自在置物》2 点 富木宗好
《蝉自在置物》富木宗好
《鳳凰図香炉》山田宗美

●七宝
《蝶図香合》並河靖之
《芦鴨図皿》濤川惣助
《花鳥図対大花瓶》安藤七宝店(林喜兵衛)
《蝶尽飾壺》粂野締太郎

●蒔絵
《渦蒔絵香合》鈴木表斎
《木目蒔絵頓骨》柴田是真
《菊尽蒔絵印籠》柴田是真
《節分図額》柴田是真
《擬竹塗煙管筒》橋本市蔵
《切段文様蒔絵印籠》白山松哉
《武蔵野蒔絵棗》白山松哉
《羽寄蒔絵香合》白山松哉
《花寄蒔絵香箱》川之邊一朝
《秋景山水図書棚》川之邊一朝
《紅葉蒔絵板文庫》池田泰真
《蓮鯉図額》池田泰真
《四季草花蒔絵提箪笥》赤塚自得
《藤蒔絵提箪笥》赤塚自得
《花尽蒔絵被せ付重小箱》観松斎(飯塚桃葉)
《芝山花雉図小箱》無銘
《花鳥図小箪笥》芝山政由
《扇面図重硯箱》無銘

●木彫・牙彫
《聖観音像》高村光雲
《法師狸》高村光雲
《雁来紅彫漆額》石川光明
《家鴨手箱》旭玉山
《柄香炉》森田藻己
《竹の中の大工根付》森田藻己
《喜座柿》安藤緑山

●薩摩
《菊唐草文ティーセット》錦光山
《花見図花瓶》錦光山
《菊尽茶碗》藪明山
《雀蝶尽茶碗》精巧山
《張幕香炉》慶田

●刺繍絵画
《老松に桐鳳凰図刺繍屏風》2代田中利七
《瀑布図刺繍額》無銘
《獅子図刺繍額》加藤達之助、制作:4代飯田新七
《粟穂に鶉図刺繍額》無銘
《豹に鸚鵡図刺繍額》12代西村總左衛門
《月に塔天鵞絨友禅軸》12代西村總左衛門
《ベニスの月》4代飯田新七、下絵:竹内栖鳳




【報告】
今回の講座のテーマは工芸です。講師の村田さんは、会社勤めをされていた1980年代終わり頃、出張で行かれたニューヨークからの帰り道、たまたま入ったアンティークモールで、美しい印籠と運命的な出会いをされました。その後、収集熱が昂じて、2000年、とうとう、幕末・明治の七宝・金工・蒔絵・京薩摩を常設展示する日本で初めての美術館として、清水三年坂美術館を開館されました。
お話は、村田さんが自らの手で収集された工芸作品をスライドで示しながら、用途・用法、モチーフ、形と色、構図・構成・構造、素材、技法、そして時代背景に私たちの注意を向けることによって、その魅力に気付かせるという手順で、進行しました。ゆっくり、静かに、言葉を選びながらのお話は、作品をまるでわが子のように慈しんでいらっしゃるようで、聞いている私たちも、思わず、自分の手で、自分の目で作品に触ってみたいと思わせるのに十分でした。
モノはコレクションの一部になることによって、使用価値を失いますが、その代わりに、新たな価値を帯びます。何か、その場にはないもの、目には見えませんが、何か大事なものを意味するという価値です。例えば印籠は、本来、腰にぶら下げて、薬品を持ち運ぶために使用されます。しかし、印籠は、いったんコレクションの一部として特別に保護されると、もはや使用されることはなく、ただ、その印籠の向こうに、何か目には見えない大事なものを見せるものになるのです。では、村田さんのコレクションが私たちに見せている大事なものとは何でしょうか。ひとつは、繊細な感性と豊かな創造力を備えた幕末・明治期の日本の工芸家たち、もうひとつは、そのような日本人の産出力へ向けられた村田さんの畏敬の念、そして、私たちも、そのような工芸品を収集・保存してみたらという村田さんの想い、また、若いアーティストも、このような工芸品に接して創造の糧にして欲しいという願い・・・・。
今回見せていただいたのは、村田コレクションのほんの一部です。その全貌を見るために、是非とも、淸水三年坂美術館に足を運びたいものです。(K)



【会場の様子】


今回のシリーズから、会場が京都新聞文化ホールに変わりました。ゆったりとした会場で、じっくりとお話を聞くことができます。スクリーンも大きく、スライドも見やすくなったように思います。ただし、次回は、また会場が変わります。ハートピア京都(京都府立総合社会福祉会館)3階の大会議室です。京都新聞文化ホールから北に、少し歩いたところで、ほぼお隣さんです。お間違いのないようにお願いします。まお、今回の講座には、清水三年坂美術館からたくさんの招待券を提供していただきました。他の美術館のものや絵葉書なども加えて、すべての受講者の皆さんに、何かひとつお持ち帰りいただきました。ご活用賜れば幸いです。

【連絡先】

きょうと視覚文化振興財団事務局

〒611-0033 宇治市大久保町上ノ山51-35
Tel / Fax:0774-45-5511