大阪府生まれ、宗良県在住。写真家・ヴィデオ作家・彫刻家。1999年よりドイツにスタジオを持ち、デュッセルドルフ、ドルトムント、ベルリン、ウィーンでも活動。なお、『美術フォーラム21』第25号に、小勝禮子「現代作家紹介 井上廣子―《森》に向かって」が掲載されています。
1998:大阪トリエンナーレ彫刻98 ※デュッセルドルフ市特別賞受賞
1999:ドイツで制作
2002:Live-Art Scholarship 2001・優秀賞受賞
2004:文化庁 文化交流使に任命される
2007:外務省 日・オーストリア21世紀委員会委員 クレムソン州立大学招待教授、サウスカロライナ/アメリカ
【作品】
井上廣子《Inside Out》No.1, 2005, Wien
日本からドイツ、オーストリア、北米など、世界を飛び回って活動する井上廣子にとって、1974-75年、文化人類学のフィールドワークで滞在した沖縄での経験が、その後のアーティストとしての活動の精神的な根幹となったという。1990年代に初めファイバーワークの作家として出発するが、1995年の阪神・淡路大震災の経験を契機として、隔離された人間の心の痛みや、人と人を隔てる境界をテーマにした作品を制作。隔離施設(精神科病院、刑務所、収容所跡など)の窓をモティーフとした写真作品や、目を閉じて直立した世界名地の高校生の写真インスタレーシヨン《Inside-Out》〔2005年、ウィーン〕で高い評価を得た。
井上廣子《Mori》No.1, 2011, Dortmund
《Mori:森》は、2011年、東日本大震災以後に制作された近作で、同年9月にまずドルトムントの個展で発表され、その後、2012年4月に被災地で撮影された風景を加えて、新たに構成されたインスタレーションである。それらはドイツと日本の森の写真だが、暗い森の記憶が漂白されたような輝きを放つ。ドイツの森には、ルール工業地帯の廃坑になった炭鉱付近の人工林の風景や、第二次大戦の激戦地となったラィヒスヴァルトの森が選ばれた。井上が撮る森は、それぞれ固有の物語を持つ。日本では、国造り神話に遡る太古の地、奈良の森がまず撮影された。新たに撮られた東北の被災地の風景は、ドイツと日本の森と並んで、未来への希望を語ることか出来るだろうか。
小勝禮子 井上廣子・作品解説『アジアをつなぐ一境界を生きる女たち1984-2012』展図録(福岡アジア美術館ほか、2012年)より一部抜枠