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視覚文化ワークショップ 視覚文化ワークショップ


第3回 視覚文化公開ワークショップが開催されました

報告 佐藤守弘(同志社大学教授)


2021年7月18日(日曜)午後2時から、同志社大学寧静館5階会議室で、第3回視覚文化公開ワークショップが、対面とZOOMのハイブリッドで行われました。会議室には、コーディネーターである佐藤守弘とゲストの藤野裕美子さん(美術作家)、天野和夫研究員、はがみちこ研究員、財団から、原田平作理事長、中谷伸生理事と入江事務局長が集合しました。担当の岸理事は、コロナワクチンの2回目接種で高熱を発し、残念ながら欠席。中村史子研究員と杉山卓史研究員は、ZOOMで参加しました。財団ホームページを通じて参加を申し込まれた4名の方々も来場され、ZOOMでも7名の方々が参加されました。今後とも奮ってご参加いただくよう、お願いします。
さて、第3回公開ワークショップは、「作家のいきかた——個・協働・社会」と題して、コーディネーターが、美術作家の藤野裕美子さんをゲストに迎え、およそ2時間30分にわたって対話を交えながら報告し、その後、質疑応答が行われました。まず、コーディネーターから、サブタイトルの「個・協働・社会」が、それぞれ作家個人としての活動、共同アトリエでの活動、地域社会との関わりという3つの側面を意味しているという説明をおこない、その流れに沿って藤野さんの発表がはじまりました。
藤野さんは、大学/大学院で学んだ日本画の技法を基礎としながらも、団体展に代表される制度に落ち着くことはなく、地元・東近江を拠点に独自の制作活動を行ってこられました。彼女の制作は、たとえば空き家で展示をする場合には、修繕や整理をおこない、会場として設営する過程で、その家に残されていたさまざまなものやその周囲を記録することからはじまります。またその過程で、近所の人びととの交流も行われます。藤野さんは、そうしたリサーチを経て得られたモチーフを、自由にサイズを変えながら、木枠に張った紙を支持体とする画面上で構成し、それをインスタレーションとして空間にしつらえます(《みざかる時点/Tangle of time》2020年)。藤野さんの作品とは、こうした環境との対話の中で作りだされていくイメージなのです。
そうした制作活動の中で見出したのが、制作の場でありながら、多様な発信も行える共同アトリエという、最近京都や滋賀でも増えてきているシステムでした。彼女は、使われなくなっていた東近江の団体事務所ビルを、管理者の協力も得て改装し、メンバーを募って 共同アトリエsoil として立ちあげました。ちなみに、「soil(ソイル)」は、土や土壌を意味する英語で、HPには、「土地改良のためのビルであったことに由来し、将来を拓く作品を生み出すための豊かな土壌を持つ現場になることを願い、そして、地域と芸術の接点が生まれる地になることを願い名付けました」と記されています。この共同アトリエを立ち上げ、運営していく過程には、管理者をはじめ、地元との協力が欠かせません。soilでは、オープン・アトリエなどのかたちで、制作の場を、言葉どおり「開いて」いきます。それは、住民の理解を得るだけでなく、作家ひとりひとり、それぞれの制作が人/社会とのつながりのなかで可能になっているということを意識するきっかけにもなるといいます。
藤野さんは、作品制作の面でもアトリエ運営の面でも、それぞれの地域社会と接点を持っているわけですが、仕事の面でも社会と関わっています。現在では、地域の公共施設で、展覧会やイベントの企画を中心として、働いています。そこでは、作家としてではない立場からの美術への関わり方を心がけているといいます。
美術であれ、マンガなど他の視覚文化であれ、若い作家が、作品制作だけで生活していくことができる人は、ほんの一握りでしょう。多くの作家が制作以外の仕事をしなければいけません。とはいえ、生活するために、制作以外の仕事をすることがマイナスになるとは限らないのではないでしょうか——もちろん藤野さんの場合は、仕事も美術や文化に関わることなので、恵まれているとはいえますが。2つ以上の仕事をして生きていく人も多くなっている中、メインの収入源がメインの仕事である、という考え方は古いものになっているのかもしれません。プロの作家であるという条件も多様化しているのではないかと思います。
今回のワークショップでの話の中で、視覚文化を取り巻く状況、すなわち制作、受容の様態の多様化が進む中、共同アトリエなどの新しい、オルタナティヴな「行き方/生き方」が芽生えはじめているのではないか、そしてそれが「美術」というコミュニケーションのサイクルを活性化することにつながっているのではないか、という思いを強くした次第です。
第4回の公開ワークショップは、杉山卓史研究員の担当です。内容の詳細は未定ですが、10月17日(日曜)午後2時から開催予定です。参加ご希望の方は、財団HPを通じて、奮ってお申し込み下さい。


【趣旨】
現代の美術/アートの世界では、作品の形態が多様化するだけではなく、その制作や発表に関わる場もさまざまなヴァリエーションが増え、それに関わる人たち——アクター——も多様化してきているという事実は、 第1回ワークショップでのはがみちこ研究員の報告 から明らかであろう。またインターネット、とくにSNSの発展により、制作者と受容者や社会をつなぐチャンネルもさまざまに増えてきている。美術/アートが、社会から切り離された自律的なものという考えも昔のこと、現在の美術作家たちは、社会とどのような関係を取り結ぶのか、そのなかでどのように振る舞うのかを問われることが多くなっているように感じる。 このような時代に、若い作家たちは、どのように考え、どのように制作し、どのように社会と関わっているのだろうか。今回は、滋賀県の東近江を拠点に活動している美術作家の藤野裕美子氏を迎え、作品制作、共同アトリエでの活動、地域社会との関係などについて語りあい、その「行き方/生き方」を探っていきたい。


  • 右が藤野裕美子さん、左が佐藤守弘研究員


  • 天野和夫研究員と中村史子研究員
    (すみません。写真が・・・。)


  • 杉山卓史研究員


  • はがみちこ研究員


  • 会場風景

【連絡先】

きょうと視覚文化振興財団事務局

〒611-0033 宇治市大久保町上ノ山51-35
Tel / Fax:0774-45-5511