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視覚文化ワークショップ 視覚文化ワークショップ


第4回 視覚文化公開ワークショップが開催されました
2021年10月17日(日曜)午後2時から、同志社大学今出川校地良心館105教室で、第4回視覚文化公開ワークショップが、対面とZOOMのハイブリッドで行われました。会場には、報告者である杉山卓史研究員はじめ、天野和夫研究員、佐藤守弘研究員、はがみちこ研究員が集合し、財団から、中谷伸生理事と岸文和理事、入江事務局長が参加しました。また、財団ホームページを通じて参加を申し込まれた10名の方々がZOOMで参加されました。今後も奮ってご参加いただくよう、お願いします。
さて、第4回公開ワークショップは、「芸術的価値と美的価値・再考」と題して、杉山研究員(京都大学大学院准教授)が、パワーポイントを駆使しながら、およそ1時間30分にわたって発表し、その後、およそ2時間、質疑応答が行われました。発表は、まず、芸術作品は多様な価値を持っているというところから、出発しました。例えば、誰かが、「この作品はすばらしい」と言ったとしましょう。「すばらしい」というのは、「よい」とか「悪い」とか、「つまらない」とか同じように、なんらかの物事の価値を評価する単語ですが、問題は、私たちが、この発言に対して、「どこが(なぜ)すばらしいのですか」と聞いたとすると、その答えはさまざまであるということです。「さまざまである」と言ってしまうと、身も蓋もないのですが、杉山さんは、芸術作品について言えば、その答えはいくつかのパターンに分類できるといいます。以下に示すのがその価値類型の一端で、それぞれについて、発言例を補ってみることにします。

認識的価値:
「フランス革命とは何であったかが分かるからです」
社会的価値:
「革命への共感を示すことによって多くの人に勇気を与えたからです」
教育的価値:
「自由・平等・博愛という理念の大切さを教えてくれるからです」あるいは「遠近法の大切さを教えてくれるからです」
歴史的価値:
「1789年7月11日に制作されたからです」
感傷的価値:
「切ない気持ちになるからです」
宗教的価値:
「信仰心が高まるからです」
経済的価値:
「高値で売買されるからです」
治療的価値:
「心が癒されるからです」
美的価値 :
「統一感がある/力強い/美しい/かわいい/面白い/暖かいからです」


「価値」と言っても、その判定基準は、作品が使用される目的や状況(コンテクスト)に応じて変化するというわけです。杉山さんは、このことを踏まえて、次のような問題を立てられました。すなわち、このリストに「芸術的価値」という新たな価値類型を追加することは可能か、また、可能であるとすると、それはどのような判定基準によって測られるのか。杉山さんの結論は、作品には「芸術的価値」と呼ばれるべき価値があるというもので、その価値は、「派生的な/独創的な/大胆な/思い切った/保守的/革新的」のような用語で語られる「芸術史的価値」であり、これらの性質(属性)こそ、作品を芸術的(芸術史的?)に「すばらしい」とか「つまらない」、あるいは「よい」とか「悪い」――一言で言えば「傑作である」とか「駄作である」――と評価するさいの理由(判定基準)になる、ということです。たしかに、このような基準は、美的価値をはじめとする、その他の価値とは異なるものです。その証拠に、誰かが「この作品は傑作です」と言って、「というのも、フランス革命とは何であったかが分かるからです」とか「心が癒されるからです」と続けたとすると、どこかピントがズレているような感じがします。また、「というのも、美しいからです」と言ったとしても同じで、やはり、なにか十分ではないような感じがします。
以上の説明は、杉山さんのご発表の入口と出口を示しただけのもので、その間の通路については、地図を示していません。詳細については、『須田記念 視覚の現場』第6号の特集「ギャラリーの役割――これまでとこれから」で、杉山さんのご自身に報告していただく予定です。ご関心の向きは、是非、お読み下さい。なお、第5回公開ワークショップは、中村史子研究員の担当で、12月26日(日曜)午後2時から開催予定です。参加ご希望の方は、財団HPを通じて、お申し込み下さい。(K)

【趣旨】
これまで数度の公開ワークショップを通じて、現代の美術/アートの、作品の形態のみならず、その作り手の「いきかた」も多様化していることが紹介・議論されてきました。そのような中では、その作品の「価値」も多様化せざるをえません。しかし、美術/アート作品の「価値」とは、そもそも何なのか、それは「価格」とどう異なり、どう測る(べきである)のか。今回のワークショップでは、一度立ち止まって、これらの問題を(特に「美的価値」との関係に即して)理論的に整理し、視覚文化の未来を考えるための材料を提供したいと思います。

【目次】
1)芸術的価値と美的価値:古くて新しい問題(?)
2)芸術的価値について考える際のいくつかのポイント
3)芸術作品が持つ価値≠芸術的価値
4)芸術的価値と美的価値
5)何が「美的」である(と考えられてきた)のか?:美的性質論史
古典の時代(バウムガルテン/カント/シラー)
美的範疇論の時代(クルーク/フィッシャー/ハルトマン/リップス/フォルケルト/デッソワール/コーヘン)
分析美学における美的性質論(シブリー/ヘルメレン/ゴールドマン)
6)一応のまとめ:芸術的価値=芸術史的価値?
7)問題提起:「真正な(authentic)」は美的価値?芸術的価値?

杉山研究員×2+佐藤研究員の背中。質疑応答中の杉山研究員を映しているのが、写真左隅に写り込んだカメラ。一見したところ電気ポットのようにも見えますが、「360度全方位対応の高画質カメラ、および4基のマイク&スピーカーを内蔵した、オールマイティなウェブカメラ」なのです。宣伝文には、「AI機能も内蔵しており、話者を自動で認識してズームアップ、フォーカスしてくれるため、多人数の参加するウェブ会議において実力を発揮します」とあります。たしかに、優れものです。ただ、この日はご機嫌が悪かったようで、ZOOM参加の方々にはご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。どうも、会場のウエブシステム?との相性が・・・。

写真奥の佐藤研究員から、時計回りに、天野研究員、はが研究員、中谷理事、そして、背中を見せているのが岸理事。各人の側に巨大な名札が見えますが、これは写真撮影中の入江事務長お手製のもの。岸理事の横にあるものは後ろ側が見えていて、手作りであることを暴露しています。それにしても、マスク姿にはすっかり馴染んでしまいましたねえ。いつかきっと、この情景が異様に見える日が来ることを祈るばかりです。

【連絡先】

きょうと視覚文化振興財団事務局

〒611-0033 宇治市大久保町上ノ山51-35
Tel / Fax:0774-45-5511