今回の主役です。左が、はがみちこ研究員、右が、ゲストの山田毅さん(アーティスト/副産物産店)です。
今回の本当の主役。アーティストが作品を制作する過程で生じたモノの数々が、会場に持ち込まれました。
2022年10月9日(日曜)午後2時から、同志社大学今出川校地良心館RY106教室で、第3回視覚文化公開ワークショップが、対面とZOOMのハイブリッドで行われました。会場には、ゲストの山田毅さん(アーティスト/副産物産店)と、今回のコーディネーターであるはがみちこ研究員をはじめとして、天野和夫、佐藤守弘、杉山卓史、渡辺亜由美研究員の面々が全員集合。財団からは、原田平作理事長はじめ、中谷伸生、岸文和理事、入江錫雄事務局長が参加しました。また、財団ホームページを通じて申し込まれた5名の方がZOOMで参加されました。今後も、奮ってご参加いただきますよう、お願いします。
今回のテーマは、「〈資料〉の現在形」です。作品の制作過程で生み出され、「ゴミ」として捨てられていたものを、文化的・芸術的な資料としての価値をもつ「宝物」として位置付け、流通させようとするユニークな試みが紹介されました。会場には、たしかに、しばしばアトリエなどで見かける「ゴミ」が持ち込まれました。しかし、それらの多くは、副産物産店の店主によって、ひとつずつ、桐箱の中に丁寧に保管されることによって、すでに、「アート資料」コレクションを形成する「宝物」のアウラを身に帯びていました。もっとも、クシシトフ・ポミアン(Pomian, Krzysztof, 1934-)の『コレクション/趣味と好奇心の歴史人類学』(吉田城・吉田典子訳、平凡社、1992年)による限り、これらのゴミが、本当の意味での「宝物」として、コレクションの対象になるためには、アートとしての価値とは区別される、アート資料としての価値に関する固有の言説が必要です。はが研究員と山田さんが、その価値について、どのような説明をされるのか、興味津々です。以下、はが研究員ご自身に報告をお願いしました。説得力のある「言説」が展開されることによって、山田さんの副産物プロジェクトが成功することを祈るばかりです。なお、ポミアンのコレクション論については、『美術フォーラム21』第42号で「特集:コレクターの眼差し——モノの向こうに何を見るか」が組まれています。参考にしていただければ幸いです。(K)
【趣旨】
従来、国内の博物館収蔵品や文化財は「資料」と呼び表されています。一般にそれらは、なんらかの高い価値(歴史的、技術的、芸術的 etc.)を有する単体のモノを指していました。しかし、近年の文化財保護政策では、2005年に保護対象に加わった「文化的景観」を筆頭に、複数の対象をネットワーク的総体として捉える見方が広がっています。有形物(モノ)だけでなく、無形物(コト)もまた、このネットワークに内包されるようになってきました。また、「資料」のオルタナティブとして、「文化資源」や「芸術資源」といった継承のための活用に重きを置く用語にも注目が集まっています。
こうした〈資料〉のあり方をめぐる地殻変動を踏まえて、今回はアートユニット「副産物産店」の山田毅さんをゲストに迎えてお話をうかがいます。芸術家の制作過程で生み出されるゴミを「副産物」と名づけ、新たな価値を付与するプロジェクトなど、「作品」の価値判断を問い直す彼らの数々の実践から、未来志向の〈資料〉概念とその制度を皆様と一緒に検討してみたいと思います。(はが)
【報告】
冒頭に今回のコーディネーターのはがみちこから企画の背景となる視点を説明させてもらった。まず従来の博物館的資料のありかたを概観した後、文化的事物の新しいとらえ方として「文化資源」という視点が登場し、2023年4月施行の改訂博物館法条文にも記載がある点を指摘した。続いて、コーディネーターとゲストの山田毅さんが所属する京都市立芸術大学芸術資源研究センターにおける「芸術資源」の発案が「文化資源」のアイデアを援用したものであることを確認し、「芸術家の制作過程で生み出される創造的な価値を持つ有形無形のもの」「作品ではないため従来の美術史では考察の対象にならなかったもの」が新たな創造や新しい歴史を導くとする加治屋健司氏のセンター設立時のエッセイを紹介した。「資源ゴミ」のように有用性の元にとらえ直されれば「ゴミ」は「資源」となり、価値判断の再考を促す契機となると考えられている。「文化資源」は「社会と⽂化を知るための⼿がかりとなる貴重な資料の総体」(⽂化資源学会設⽴趣意書)とされていた。「単体」をベースとしてヒエラルキー構造をともなう従来の博物館等の資料モデルに対し、「文化/芸術資源」モデルは複数の事物の「ネットワーク的総体」である点を下記の図を用いて確認した。
続いて山田さんから、矢津吉隆氏と協働するアートプロジェクト「副産物産店」の活動紹介がおこなわれた。芸術家のアトリエを訪問し、そこで生み出される魅力的な廃材を「副産物」として回収、販売するというコンセプトで、資材循環のプロジェクトだという。資材として別の芸術家の制作に使われたり、加工されて商品化されたりする場合(「副産加工品」)もあるが、そのままで鑑賞の対象となる場合もあるそうだ。それらのモノたちによって作品単体では見えてこなかった芸術家の新たな魅力が発見される効果は、「芸術資源」の考え方に通じていると言える。これまでに実施した様々な展覧会、ワークショップ、販売会等の事例も報告された。アートの枠を超えて、商業施設の社会実験の取り組みなど様々な場所に進出しているとのことである。
最後に、山田さんに持参してもらった実際の「副産物」を参加者で眺めながら質疑がおこなわれた。これらのモノが価値を帯びるためには「副産物」の作者が誰であるかが重要ではないか、という意見に対し、「副産物産店」の活動では誰のものであるか明示していないという方針が山田さんから述べられた。作者性を剥ぎ取った匿名的なモノの状態であることによって、新たな価値の発見に繋がるようである。(また、作者の持つ既存マーケットへの不必要な介入=「転売」を避けることで、「副産物」を提供してもらいやすくするプラクティカルな側面もあるらしい。)この場合にモノの価値を担保するのは、それらの総体である「副産物産店」というプロジェクトそのものではないか、といった議論が続いた。ポピュラーな体裁を取りながら、既存の「価値」や「制度」へ鋭く問いかける「副産物」の批評性に注目が集まっていた。モノをめぐるこうした実践から、前回のワークショプで提起された「オルタナティブ」のあり方に一考を加えることができたのではないかと考える。(はが)
様々な「副産物」のコレクション。ここに写っているのは、紙やガラスのパレット、釉薬見本、オルトンコーン(溶け具合で陶芸の窯の温度を測る道具)、絵の具の塊り、砥石、制作手法の実験をしたテストピースなどです。なお、マイクが一本紛れ込んでいます。残念ながら、これはコレクションアイテムではありません。)
コレクションに見入る参加者の面々。中央は、財団の中谷理事。両手をポケットに突っ込んでいますが、これはコレクションに手を触れないという意思表示です。それに対して、腕組みしているのが、杉山研究員。文化資源についての専門家ですが、腕組みの意味するところは、さて・・・。その左、頭髪だけが見えている渡辺研究員を挟んで、茶色系のジャケットを着ているのが、天野研究員。腕組みをしているのかどうか、はっきりしませんが、天野画廊の代表者ですから、このコレクションのマーケット的な価値について、ギャラリストの立場から、どう評価されるか、お尋ねしてみたいものです。なお、グレーのスウェットの後ろ姿は、ゲストの山田さん。その右、黒いジャケットの後ろ姿は、佐藤研究員です。)