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視覚文化ワークショップ 視覚文化ワークショップ

2023年度 第1回 視覚文化公開ワークショップが開催されました

2023年度最初の視覚文化公開ワークショップが、7月16日(日曜)午後1時から、同志社大学今出川校地良心館RY106 教室で行われました。会場には、報告者である天野和夫はじめ、杉山卓史、はがみちこ、渡辺亜由美研究員が集合しましたが、佐藤守弘研究員の姿がありません。新型コロナの「妖精ちゃん」になって隔離中とのことでしたが、今は、すっかり元気を取り戻されています。なお、財団からは、中谷伸生、岸文和理事が参加しましたが、原田平作理事長の姿もありません。体調を崩されているようで、ご快復をお祈りします。また、今回は、佐藤研究員が欠席でしたので、急遽、ZOOMを中止しました。ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。ZOOMは今後も続けるつもりですので、奮ってご参加いただきますよう、お願いします。

天野和夫研究員


今回の発表は天野和夫研究員の担当です。「展示ーたかが展示されど展示」というタイトルで、およそ1時間話された後、アーティストによるインスタレーション(installation)作品の意味生成に言及した上で、ご自身のギャラリーで開催された展覧会における複数の作品の展示(display/exhibition/presentation)例を紹介されました。ということで、今回は、紹介された展示例から特に3件を選んで、天野研究員ご自身に「報告」をお願いしました。(K)


「展示ーたかが展示されど展示」

天野和夫


【趣旨】
一般に、展示作品(展示物)に対する論考は星の数ほど見受けられるが、それらを展示する方法や意図についての文献は少ない。また、博物館や美術館における展示と画廊(ギャラリー)における展示にも若干の差異が見られるのは論を待たない。このワークショップでは発表者の天野和夫が画廊業界50年の経験で得た知見をもとに、主として画廊における作品の展示方法やその意図、効果などについて考察する。

【要旨】
1)
「展示」とは、限られた壁面または空間に展開される1つの表現体系。
2)
展示の基本は、鑑賞者と展示物の良好な関係を保つこと。展示物が平面作品にあっては、平面作品の中心の延長上に鑑賞者の目の位置(地上約1.5m)が来ること。立体作品にあっては展示スペースの天井高や展示台の有無により展示意図や展示効果が大きく左右される。
3)
展示物が複数の場合は、基本的にそれぞれの展示物の中心画一直線上に並ぶのが基本。ただし、展示物の大きさに極端な差異がある場合は、より大きな展示物の中心をより小さな展示物の中心よりやや下にもってくることで落ち着いた配置になる場合が多い。立体作品の場合は、2つのことに対する配慮が必要。1つは、鑑賞者が入室時におおよそどの位置に立つかを想定した展示効果を考えること、もう一つは、それらの立体作品をどのような導線で鑑賞するかを想定した展示効果を考えること。
4)
上記の1)、2)、3)は「展示」の基本に相当する。それらの基本を踏まえた上で、以下、現実の展示における様々な具体例を見ていく。
5)
ガクブチとは何か?
  a)
展示空間から作品を切り離す仲介物。ただしガクブチのデザインは展示空間と作品双方から影響を受ける。昔は、絵画を「額」と呼んでいた。
  b)
日本家屋における「床の間」は一種のガクブチの役割を持っている。ゆえに、現代オブジェが台座なしにそのまま置かれてもサマになる。床の間は客間、もてなしや儀式の間。室町以降(異文化との出会い)
  c)
「床の間」は「縮み志向」に通じる。大きなものは置けないだけでなく、コンデンス(凝縮)という観念に結び付く。
6)
ガクブチのない平面作品の展示
  a)
ミニマルアートあるいはコンセプチュアルアートとの関係
ミニマルアートはガクブチと馴染まない。むしろインスタレーションの前段として展示壁面または空間全体のなかに展開される。コンセプチュアルアートは外延よりは内包を目指す例が多いがこれもまたガクブチとは馴染まない。のちに両カテゴリーは混在してインスタレーションの新たなカテゴリーに発展。
  b)
展示空間の多様化との関係
町家や寺社で現代美術の展示する機会が増えたが、光の入り具合や背景、床などの問題があり、成功例は多くない。
  c)
インスタレーション作品との関係
インスタレーションは、中国では「設置芸術」。韓国では「設置芸術」と「インスタレーション」は半々。インスタレーションの基本概念は3Dから4Dへ。新たなDは「時間」。映像の世界に近づいたとみることもできる。その点では昔の数々の実験映画に共通するものがある。しかし「時間」の扱いは、いわゆる「動画」と「静止画」の延長であるインスタレーションとはまるで違う。「動画」には時間の流れが所与のモノとして厳にあり、インスタレーションに対しては、観る者自らが時間の流れを作り出す。この差異を乗り越えたところに「名作」ができる。
  d)
「関係性」について、あるいはイ・ウーハンの作品について
「関係性」は「心象画」と同様に翻訳不能語。「関係」自体に「性」が含まれる。したがって「関係性」からは何も生まれない。イ・ウーハンの作品は「神性」と「俗性」の二元論でとらえるべき。
7)
両隣の作品との関係、色彩、大きさ、間隔などについて
8)
立体作品と平面作品が混合する場合の展示
9)
コーナーを生かした展示の参考例




【展示風景】
ベリーマキコ展(2021年1月18日-30日、天野画廊)での展示例
作者のベリーマキコ氏の作品は、ガクブチのないものや自作のガクブチ、既製品のガクブチの再利用など、さまざまなタイプが混在する。それらが小品の場合は、それぞれの大きさや色彩の特徴などを考慮して、全体を矩形の枠にはめるように組み合わせることで、ガクブチの有無やデザインによる違和感を軽減することができる。この場合は9点の小品を左半分と右半分のバランスに注意しながら組み合わせを考えた。最後に置いたのはガクブチのついた作品だが、これは左右のバランスを考慮して中央やや右寄りに設置した。この例では、もし作品が1点欠けた場合、全体の組み合わせは大きく変わることになる。

嶋田ケンジ展(2022年10月31日-11月12日、天野画廊)での展示例
作者の嶋田ケンジ氏は陶芸作家。この時のテーマは「塔のある風景」。ノスタルジックな雰囲気をたたえながら、廃墟に近い原風景を狙いどころとしている。大小さまざまな塔が12体。展示に際しては床から立ち上げるものや、彫刻台に乗せるものなどをまず選別しながら、あまり高さのない作品については壁付けの展示台(壁のどの部分にでも取り付け可能)を使って部屋全体の構成に留意した。作品はすべて立体作品なので、鑑賞者は回遊しながら作品に接することになるが、ギャラリーに入室したときの第一印象が非常に大事なので、それを最優先の視点として最適の配置に見えるよう最後に微妙な調整をした。

私にとっての芸術資源展(2023年2月13日-25日、天野画廊)での展示例
この展覧会は前年に行われたきょうと視覚文化振興財団のはがみちこ研究員の発表テーマであった「芸術資源」に多くのヒントを得て、筆者が独自に組んだプロジェクトだった。14名の作家と天野画廊が所有する「芸術資源」約40点を展示。展示品は作品ではないから販売対象ではないと判断しすべて非売にしたうえで、展示物には作者ではなく提供者の扱いで作家名を記した。言うまでもなく、「芸術資源」は、芸術を生み出す元になるものであるから、何を「芸術資源」とするかは、人によってそれぞれ違いがある。また「芸術資源」という用語そのものもいまだ市民権を確定した用語とはいいがたい。そこで本展は、「わたしにとっての芸術資源」展とした。なお、14名の資源提供者は次の通り。モリン児、笹埜能史、小泉光子、甲斐良夫、ハラチグサ、フジタナオミ、城野愛子、嶋田ケンジ、岡野ひろみ、森佐代子、コバキン、オトシメル、浅山美由紀、柴田知佳子。

【連絡先】

きょうと視覚文化振興財団事務局

〒611-0033 宇治市大久保町上ノ山51-35
Tel / Fax:0774-45-5511