2023年度2回目の視覚文化公開ワークショップが、9月3日(日曜)午後1時から5時30分頃まで、同志社大学今出川校地良心館RY208 教室で行われました。会場には、報告者である佐藤守弘研究員は言うまでもなく、天野和夫や杉山卓史研究員、また数人の研究者や学芸員の方、院生にも参加していただきました。ようやくコロナ禍が過去のものになりつつあるかなあと思わせたのですが、はがみちこ研究員は発熱されたようで、Zoom参加。まだまだですねえ。また、渡辺亜由美研究員は休日出勤で欠席。残念でした。ちなみに、今回、30名あまりの方々から、Zoom参加のご希望があり、嬉しい限りです。たくさんの方々とのネットワークが拡がり、コミュニケーションが深まることが、ワークショップの目的だからです。
佐藤守弘研究員
今回の発表は佐藤守弘研究員の担当です。「眼目の教 ー コレクションと展示の視覚文化論」というタイトルで、よほど思いが強かったのでしょう、2時間話された後で、岸も参加させていただいて、質疑応答を行いました。ということで、今回の報告は、佐藤さんにお願いすることにしました。盛りだくさんです。(K)
「眼目の教ーコレクションと展示の視覚文化論」
佐藤守弘
【概要】
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- 1873年 日本政府は、ウィーンで行われた万国博覧会にはじめて公式に参加した。博覧会事務局の副総裁であった佐野常民は、その報告書に、博覧会の本質とは「眼目の教によりて人の智功技芸を開新せしむるに在り」と綴っている。彼は、視覚的に語られる物語が人に訴えかけることの影響力 ー 彼は「眼視の力」と呼ぶ ー の大きさを、博覧会という展示形式に見たのであろう。
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- 博覧会だけでなく各種のミュージアム、動物園、百貨店などは、モノを陳列・展示することで知識を共有し、あるいは欲望を喚起する諸装置であり、それらは19世紀に劇的に発達し、20世紀に最盛期を迎えた。言葉ではなく、モノそのものにストーリーを語らせる視覚的展示という文化は、まさにモダニティを代表するメディアのひとつであったと言えるだろう。ただ、それは果たして21世紀においてもまだ力を持つのであろうか?
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- 今年度の視覚文化ワークショップの共通テーマが「展示」であることを承けて、今回は展示という文化的営為を、展示をする者からそれを見る人びとへのコミュニケーションと捉えることを試みる。展示はどのような世界を指し示しているのか? それはどのような考えを表明しているのか? それは観者にどのように働きかけるのか? 展示されるモノ、展示の場、展示に関わるさまざまな規範や理論は、いったいどのような機能を果たしているのか? そして、そもそもこのようなコミュニケーション図式において展示を捉えることが、展示の過去/現在/未来を考えることに少しでも寄与するのだろうか? 本ワークショップでは、コレクションと展示のコミュニケーション図式の試案を提示し、それをミュージアム、コンビニ、動物園などの実例に当てはめることで、その文化の果たす諸機能を考えていきたいと考えている。
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- また今回は、『絵画のメディア学 ー アトリエからのメッセージ』(共編著、昭和堂、1998)などで、さまざまなイメージのメディア的機能をロマン・ヤコブソンによるコミュニケーション図式を採用することで読み解いてきた岸文和氏(同志社大学名誉教授、きょうと視覚文化財団理事)をコメンテーターとして迎えて、報告者の提示するモデルを徹底的に叩いていただき、「使える」モデルに鍛造していこうと考えている。
【参考】
「特集:コレクターの眼差し ー モノの向こうに何を見るか」
「趣旨説明」(岸文和)『美術フォーラム21』第42号
【サンプルPDF】
【目次】
- 1)
- コレクションと展示の視覚文化論
視覚文化 ー 文化論的転回以降のイメージ研究/佐野常民と1873ウィーン万博/モノの社会的人生/コレクションの生態系/ポミアンのコレクション論/展示の力/選択(範列 paradigm)と結合(統辞syntagm)
- 2)
- レクチャー:展示の近代文化史
並べて見せること ー 陳列・展示・展覧/信仰と展示/驚異の部屋・珍品陳列室/博物学の時代/メナジェリーからズーへ/パノプティコンからパノラマへ/ギャラリー・システムの登場/1851 ロンドン万博/パサージュとパリ大改造/百貨店の誕生 ー 都市のミニアチュール/フラヌーズと移動的視覚/究極のパノラマ=ギャラリー ー 1867パリ万博/モダンな美術館のリニアな展示=統辞法
- 3)
- 展示の記号学とコミュニケーション理論
コレクションと展示のコミュニケーション図式/岸文和のコミュニケーション図式/ヤコブソンのコミュニケーション図式/言語の6機能 ー 主情的・動能的・指示的・交話的・メタ言語的・詩的機能/コレクションと展示/展示の主要3機能 ー 主情・働きかけ・指示/展示における交感性/メタ展示の諸相/展示の詩学
- 4)
- コンビニエンス・ストアの展示論
コンビニのレイアウト/「回遊」と移動的視覚/働きかけ機能:コンビニのメッセージ/交感的機能:コンビニという場/展示のコード:商品陳列法/コードが仲介者を支配する ー 村田沙耶香『コンビニ人間』/触知的機能:モノの手触り
【コミュニケーション図式】
【参考文献一覧】(著者名アルファベット順)
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Appadurai, Arjun, ed.(1986)The Social Life of Things: Commodities in Cultural Perspective, Cambridge, UK: Cambridge U. P.
朝妻恵里子(2009)「ロマン・ヤコブソンのコミュニケーション論 ー 言語の「「転位」」『スラヴ研究』56
Belting, Hans(2001:2014)『イメージ人類学』仲間裕子訳
Benjamin, Walter(1935:1995) 「パリ ー 一九世紀の首都」、浅井健二郎編訳『ベンヤミン・コレクションI ー 近代の意味』久保哲司訳、筑摩書房
Cooke, Lynne and Peter Wollen (1995)Visual Display: Culture beyond Appearance, Seattle: Bay Press.
Debord, Guy(1967:2003)『スペクタクルの社会』木下誠訳、ちくま学芸文庫、筑摩書房
Foucault, Michel(1966:1974)『言葉と物 ー 人文科学の考古学』渡辺一民、佐々木明訳、岩波書店
Friedberg, Anne(1993:2008)『ウィンドウ・ショッピング ー 映画とポストモダン』井原慶一郎、宗洋、小林朋子訳、松柏社
藤原隆男(2016)『明治前期日本の技術伝習と移転 ー ウィーン万国博覧会の研究』丸善プラネット
Hall, Stewart, ed.(1997) Representation: Cultural Representations and Signifying Practices, London: Sage
石田英敬(2003)『記号の知/メディアの知 ー 日常生活批判のためのレッスン』東京大学出版会
Jakobson, Roman(1963/1973)『一般言語学』川本茂雄監修、田村すゞ子他訳、みすず書房
--(2015)『ヤコブソン・セレクション』桑野隆、朝妻恵里子編訳、平凡社ライブラリー、平凡社
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岸文和(2008)『絵画行為論 ー 浮世絵のプラグマティクス』醍醐書房
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北澤憲昭(1989)『眼の神殿 ー 「美術」受容史ノート』美術出版社
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Malinowski, Bronisław(1923/1967)「原始言語における意味の問題」、C・オグデン、I・リチャーズ『意味の意味』石橋幸太郎訳、新泉社、385-430
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太田喬夫、三木順子編(2007)『芸術展示の現象学』晃洋書房
Pomian, Krzysztof(1978:1992)『コレクション ー 趣味と好奇心の歴史人類学』吉田城、吉田典子訳、平凡社
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Saussure, Ferdinand de(1916/2016)『新訳 ソシュール一般言語学講義』町田健訳、研究社
田中大介(2015)「現代日本のコンビニと個人化社会 ー 情報化時代における「ネットワークの消費」」『日本女子大学紀要 人間社会学部』26、25−39
--(2010)「コンビニの文化」、井上俊、長谷正人編著『現代社会学入門 ー テーマとツール』ミネルヴァ書房
田中芳男・平山成信編(1897)『澳国博覧会参同記要』中編、森山春雍
吉田憲司(1999)『文化の発見 ー 驚異の部屋からヴァーチャル・ミュージアムまで』岩波書店
投影されているのは、言語学者ロマン・ヤコブソンによる言語コミュニケーションのモデルを基に、岸文和氏(本財団理事)が絵画のコミュニケーション図式を参考にしながら作った図式(前掲図参照)です。上の写真に見える「3機能」もこの図式から導き出されたものですが、特徴としては中心に「コレクション」と「展示」が、上の裏表のように一体化した項を据えていることです。そのままでは大量のモノの集積に過ぎないように見えるコレクションを整理・分類して、受容者に理解可能なものにするのが広い意味での「展示」であるというのがキモで、そこから展示の「場」の重要性 ー 交感的機能 ー を主張しました。
参加者の興味を多く引いたのが、「展示の主要3機能」でした。展示をコミュニケーションとして捉えた時に見出される機能のうち、「事実」を伝える指示的機能、企画者の考えや気持ちを伝える主情的機能、見る人になんらかの行動を促す働きかけ機能の3種類によって、さまざまな展示施設を分類することができるのではないかというのが主旨でした。
Zoom経由で参加されたはがみちこ研究員とは、美術館の、とくに現代美術の展示における働きかけ機能や交感的機能について議論がありました。